最終章 つなぐ想い

人参ジュースの開発ストーリーをノンフィクション風の読物にしました

「瓶やないとしたら、紙パック、ペットボトル、缶? どれもなぁ……」

 最初にして最大の壁。それは、新しい容器の選択であった。数ある容器の中でも古くから利用されてきた瓶は、云わば異質な存在。重くて取扱いにくいという側面はあるものの、品質を保つ力は他の容器よりも圧倒的に優れている。
「のっけからつまずくなぁ。軽さもクリアして、品質も保てるやつどっかにないんかぁ」
書斎のデスクで頭を抱えながら、賢児さんはうなだれていた。ふと天井をぼーっと見つめていると、とある古い記憶が頭をよぎった。
「あっ」
賢児さんは慌てて名刺ファイルを取り出し、記憶を手繰り寄せるようにページをめくった。
「あった!」
大きな声を出した後、一度深く息を吐き、左手に持った名刺の番号に電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。凸版印刷の庭田です」
長年お付き合いのある凸版印刷の庭田さん。印刷業界のエキスパートだ。
「あぁお世話になります、松です。ご無沙汰してます庭田さん」
「ご無沙汰してます松社長! どうされましたか?」

「いやぁ実は人参ジュースの容器の件で。瓶よりも便利で品質も保てるものを探してるんですが、以前に〝新しい紙容器〟のことチラッとお聞きしたのを思い出しまして」
「あぁ、カートカンですね」
「はい! そのカートカンって何が良いのか、もう一度詳しく聞かせてもらえませんか?」
「そうですねぇ、従来の紙容器って品質の劣化が早いのが弱点だったんですけど、カートカンは容器のバリア層に特殊な透明バリアフィルムを採用しているので、品質の劣化が少ないんです。だから賞味期限も長く持ちますよ!」
「なるほど、それは凄いですね! 紙やったら環境にも優しいし――」

 〝瓶よりも便利で飲みやすいものへ〟カートカンはそれを叶えてくれる救世主となった。庭田さんの協力を得て、賢児さんはカートカンを新容器とした人参ジュースを開発。さらなる甘さとコクを求め、何度も試作を繰り返した。味にも妥協を許さないそのド根性は、まさに父親譲りだった。

 「オッシャ! やっとできたぞ‼」
立ちはだかる壁を乗り越え、ようやく完成させた紙容器入りの人参ジュース。最初に飲んでもらいたい人はもう決まっていた。
「できたでオヤジ! 飲んでみてくれ」
賢児さんが真っ先に届けたかった人。それはもちろん順造さんだった。

「ウン、美味しい‼」
「よかった! 瓶よりも軽くなったし、便利やと思うねん」
「そやなぁ――」
手にした瞬間、フタのシールをめくる瞬間、意図せぬ〝ずっしりとしたもの〟が心の奥に溜まっていくのを、順造さんは感じていた。
「ホンマにエエもん作ってくれたなぁ、ありがとう」
「これができたのもオヤジが美味しい人参ジュース作り続けてくれたおかげや。この味は俺が絶対守っていくからな」
「あぁ、頼むわ」

 こうして誕生した紙容器人参ジュースは、今では多くの人の健康を支えている。その裏には、たゆまぬ努力と奇跡の連続、そして、ニュージーランドの人参のように強く太い絆で結ばれた〝親子の物語〟があった。

『順造さん親子のにんじん物語』はこれで終了になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。