第五章 納得の味を追い求めて

人参ジュースの開発ストーリーをノンフィクション風の読物にしました

「本当に大丈夫ですかね?」
「さぁ、どうでしょうね……」

 ニュージーランドの大地で見つけた〝奇跡〟と、噛みしめた〝確信〟をなんとか具現化したい。日本に帰った順造さんは早速新しい人参ジュースの開発に取り掛かっていたが、一部の社員からは不安の声もあった。長きにわたり国産の人参を使ったジュースを提供してきたにも関わらず、突然のニュージーランド産への移行。〝国産のものが良い〟というあまりにも普遍的な常識が根を張る中、新しい人参ジュースが受け入れられるだろうかという不安が、彼らの中にはあったのだ。だが、順造さんの意志は強く、真っ直ぐだった。まるで、ニュージーの大地に降り注ぐ日の光のように。
「このまま納得いかんジュースを売り続けることはできへん。毎日飲むんやから、味が大事や! ワシが絶対に完成させたる‼」

 試作第一号は、ニュージーランドの人参だけを搾った百%ジュース。順造さんは、工場から送られてきたジュースを一口飲んだ。
「ンンっ⁉ 何やこれは、甘すぎる‼」
ニュージーランドの人参なら絶対に良いものができると思っていたのだが、あの野生的なルックスが秘める甘さのポテンシャルは、想像を超えるものだった。
「ニュージーだけやったら甘くなるんかぁ」
ニュージーランドの人参を使って、甘さもコクもちょうどいい百%ジュースを作りたい。されば、次に打てる策はこの一手。国産人参とのブレンドである。順造さんはすぐさま試作を始めたが、究極の配合比というのは、そう易々と見つかるものではない。あれよあれよという間に考案のレシピは十を超え、試作の瓶がキッチンカウンターに溜まっていく。
「ウーン、ええもん使ってるからそれなりに美味いのは出来とるけど、なんか違うなぁ――」

 順造さんはその後も試行錯誤を重ねた。考えられる配合比は全て試したのではないだろうか。そして、一番納得のいく比率をようやく見つけた。それは、シンプルな約五十対五十の比率だった。
「ウン! 甘みとコクが強くて、酸味とのバランスもちょうどええ。飲み口はスッキリしとるし、絶妙な美味さや! 飲んで素直に『美味い』と言える。これが作りたかったんや!」
十年前、初めて完成させた人参ジュースを一口飲んだ。そのときの感動が蘇ってきたあとで、今回の感動はそれ以上かもしれないと、順造さんは思った。
「色んなことがあって、いい出会いがあって、不思議な縁に導かれてできた人参ジュースやなぁ」
順造さんはしみじみと感じるのであった。

当時の瓶入り人参ジュース

 こうして、二代目人参ジュースが誕生した。国産の人参とニュージーの農場で太陽をいっぱい浴びた人参との合作。どこにもない、唯一無二のジュースとなった。そして、これは新たなスタートでもある。
「ここからが始まりや。もっとたくさんの人にこの人参ジュースを届けたいなぁ」

続く。